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研究内容
重力波
重力波とは、光速で伝播する時空の歪み(波) のことです。1915年にアインシュタインが提唱した、一般相対性理論によりその存在は予言されており、1980年頃から連星系の公転周期の観測が重力波の存在を仮定した場合の理論予言とぴったりと一致していることから重力波が存在しているはずであると考えられてきました。しかし、地球に到来する重力波の信号は非常に弱く、長い間、直接的検出はされていませんでした。しかし、2015年 9月、ついにアメリカの検出器がブラックホール連星合体により発生した重力波を初検出しました。大きな重力波を発生される天体としては、初検出となったブラックホール連星の合体だけではなく、中性子星連星の合体や超新星爆発など様々なものが考えられます。中性子星連星合体からの重力波は 2017年に既に観測されていますが、超新星爆発からの重力波は 2021年2月時点では未検出です。天体起源の重力波以外にも、初期宇宙におけるインフレーションや宇宙ひも、宇宙の相転移・再加熱といった高エネルギーで激しい現象によっても生成されると考えられています。現在その直接的検出へ向けた将来観測計画が進められています。
重力波の観測から分かること
重力波観測は一般相対性理論の検証としても大きな意味を持ちますが、様々な天体現象や初期宇宙を理解する上でも非常に重要です。というのは、重力相互作用は電磁相互作用に比べて非常に弱いので、従来電磁波により観測できなかった領域、つまり、星の内部や星間物質などの多い場所、さらには初期宇宙からもほぼ散乱されずに我々に届くため、電磁波望遠鏡による観測とは相補的な情報が得られると期待されています。また、歴史的に新たな観測方法は常に新たな宇宙の姿を映し出してきたように、重力波によって我々が予想だにしていなかった、未知の現象の発見も期待できます。このように、重力波の研究は多岐にわたっており、重力理論から原子核理論、素粒子理論、天文学から宇宙論までの幅広い分野において活発に応用研究が進められています。以下は、最近進めている幾つかの研究テーマです。
重力波による重力理論の検証
従来の重力理論の検証は太陽系のような重力が弱く準静的な (速度が遅い) 場合に限られていましたが、重力波の初観測を機に、ブラックホールのように重力が強い場合や重力波の伝播そのもののように動的な場合の重力の性質を調べることが可能になりました。しかし、一般相対性理論を拡張した重力理論は様々な目的でこれまで多数提案されており、それぞれの理論の詳細に依らない形で重力の性質を検証することが重要になります。そこで、我々は重力波の偏極モードを用いる方法を提案しました。偏極モードの数は各重力理論に特有であり、一般相対性理論では2つのモードが存在しますが、拡張重力理論では3つ以上の偏極モードが存在できます。つまり、偏極モードの数を観測データから調べることで正しい重力理論を絞り込めるというわけです。
重力波の伝播の性質も重力理論の検証としては重要です。伝播速度は重力におけるローレンツ対称性の破れや時空の量子効果などと関係している可能性があり、伝播中の重力波の減衰率は重力の強さの時間変化と関係しています。我々はこれらの観測量を測定することで、一般相対性理論を検証すると同時に、正しい重力理論を絞り込もうとしています。
重力波による宇宙論
連星系から放射される重力波の波形は、一般相対性理論により精確に計算することができるため、観測データと比較することで天体までの距離測定に利用することができます。複数の天体までの距離が分かれば、そこから宇宙の膨張速度や銀河などの宇宙の物質分布に関する情報が得られ、宇宙論パラメータを測定することができます。特に、現在の宇宙膨張速度を表すハッブル定数の値は観測方法によってばらつきが大きく、正確な値が分かっていないため、重力波観測によるハッブル定数の測定が注目されています。我々はこれまで新たな測定方法や感度の検討を行い、重力波観測は観測的宇宙論への応用としても有望であることを示しました。現在は、実際の観測データへ応用するための研究を進めています。重力波による天文学
アメリカの重力波検出器 LIGO によって初めに検出された重力波信号から見積もられたブラックホール連星の質量はこれまで間接的に見つかっていたものよりも重く、そのようなブラックホール連星が形成可能なのか大きな議論になっています。その後、多数のブラックホール連星合体イベントが見つかっていますが、奇妙な質量を持ったブラックホールも幾つか見つかっており、宇宙のいつどこでどのようにそのようなブラックホール連星が形成されたのか、ブラックホール連星の形成と進化は未解決問題です。幾つか提唱されている連星形成説を区別するためには、様々な連星系パラメータ(質量、自転、軌道など) の分布を調べることが重要になります。我々は、特に連星の軌道離心率に連星形成説の違いが顕著に現れることに着目し、将来の重力波検出器により連星形成説を如何に区別できるかを調べました。最近では、銀河の密集具合と重力波の到来方向との相関をとることで統計的に連星形成に関する情報が引き出せないか検討をしています。