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研究内容

重力波

 重力波とは、光速で伝播する時空の歪み(波) のことです。1915年にアインシュタインが提唱した、一般相対性理論によりその存在は予言されており、1980年頃から連星系の公転周期の観測が重力波の存在を仮定した場合の理論予言とぴったりと一致していることから重力波が存在しているはずであると考えられてきました。しかし、地球に到来する重力波の信号は非常に弱く、長い間、直接的検出はされていませんでした。しかし、2015年 9月、ついにアメリカの重力波観測所 LIGO がブラックホール連星合体により発生した重力波を初検出しました。

 大きな重力波を発生される天体としては、初検出となったブラックホール連星の合体だけではなく、中性子星連星の合体や超新星爆発など様々なものが考えられます。中性子星連星合体からの重力波は 2017年に既に観測されていますが、超新星爆発からの重力波は未検出です。天体起源の重力波以外にも、初期宇宙におけるインフレーションや宇宙ひも、宇宙の相転移・再加熱といった高エネルギーで激しい現象によっても生成されると考えられています。現在その直接的検出へ向けた将来観測計画が進められています。

重力波の観測から分かること

 重力波観測はそれ自体が一般相対性理論の検証としても大きな意味を持ちますが、天文学や宇宙論への応用は従来の観測では見えなかった宇宙の姿を明らかにすることが期待されています。重力相互作用は電磁相互作用に比べて非常に弱いので、重力波は電磁波では観測できなかった領域、つまり、星の内部や星間物質などの密度が高い場所、光を発しない場所、さらには初期宇宙からも直接我々に届きます。つまり、電磁波で明るい宇宙ではなく、暗黒宇宙を「見る」ことができます。ブラックホール連星合体はまさにその一例です。また、新たな方法で宇宙を観測すると、我々が予想だにしていなかった、未知の現象が発見される可能性もあります。このような理由から、重力波の応用研究は、重力理論から素粒子理論、原子核理論、天文学から宇宙論まで、多岐の分野にわたって活発に進められています。

以下は、最近進めている幾つかの研究テーマです。

重力波による重力の検証

 従来の重力理論の検証は太陽系のような重力が弱く準静的な (速度が遅い) 場合に限られていましたが、重力波の初観測を機に、ブラックホールのように重力が強い時空や、重力波そのもののような動的な時空の性質を調べることが可能になりました。一般相対性理論を拡張した重力理論は様々な目的でこれまで多数提案されており、真の重力理論を知るためには、まだ検証されていない、極限的な環境での重力の性質を調べることが非常に重要です。

 そこで、我々は重力波の偏極モードを用いる方法を提案しました。偏極モードの種類と数は各重力理論に特有の性質です。一般相対性理論では2つの偏極モードが存在しますが、拡張重力理論では3つ以上のモードが存在できます。つまり、重力波の観測データを解析し、偏極モードの種類と数を調べることで、重力波が生成された極限的な環境における重力理論の性質を絞り込めるというわけです。

 重力波の伝播の仕方も重力理論の検証として重要です。伝播速度は重力におけるローレンツ対称性の破れや時空の量子効果などと関係している可能性があり、伝播中の重力波の減衰率は重力の強さの時間変化と関係しています。我々はこれらの観測量を測定することで、一般相対性理論を検証すると同時に、正しい重力理論を絞り込もうとしています。

重力波による宇宙論

 連星系から放射される重力波の波形は、一般相対性理論により精確に計算することができるため、観測データと比較することで天体までの距離測定に利用することができます。複数の天体までの距離が分かれば、そこから宇宙の膨張速度や宇宙の暗黒物質分布に関する情報が得られ、宇宙論パラメータを測定することができます。特に、現在の宇宙膨張速度を表すハッブル定数の値は観測方法によってばらつきが大きく、正確な値が分かっていないため、重力波観測によるハッブル定数の測定が注目されています。我々はこれまで新たな測定方法や感度の検討を行い、重力波観測は観測的宇宙論への応用としても有望であることを示しました。現在は、実際の観測データへ応用するための研究を進めています。

初期宇宙 (宇宙が生まれた直後) に生成された原始重力波は重力波観測の究極のターゲットです。それは直接検出は重力波のみによって可能だと考えられているからです。原始重力波を観測することで、ビッグバン以前の宇宙がどのように生まれ進化したのかを調べることができます。また、初期宇宙は非常に高エネルギーなので、未知の基礎物理法則や時空の量子性などの痕跡を発見できるかもしれません。その観測を目指す将来計画が我々も参加している DECIGO 計画です。現在は、原始重力波の観測へ向けた、先進的なデータ解析法の開発に取り組んでいます。

重力波による天文学

 アメリカの重力波観測所 LIGO によって初めに検出された重力波信号から見積もられたブラックホール連星の質量はこれまで間接的に見つかっていたものよりも重く、そのようなブラックホール連星が形成可能なのか大きな議論になっています。その後、多数のブラックホール連星合体イベントが見つかっていますが、奇妙な質量を持ったブラックホールも幾つか見つかっており、宇宙のいつどこでどのようにそのようなブラックホール連星が形成されたのか、ブラックホール連星の形成と進化は未解決問題です。

 幾つか提唱されている連星形成説を区別するためには、様々な連星系パラメータ(質量、自転、軌道など) の分布を調べることが重要になります。我々は、特に連星の軌道離心率に連星形成説の違いが顕著に現れることに着目し、将来の重力波検出器により連星形成説を如何に区別できるかを調べました。最近では、銀河の密集具合と重力波の到来方向との相関をとることで統計的に連星形成に関する情報が引き出せないか検討をしています。